เข้าสู่ระบบ第 百二十四話 こぼれ噺《ばなし》 「お~い~ら~ん……」 梅乃は第二子の具合を診に玉芳の家まで来ていた。 “ポカンッ――” 勢いよく出てきた玉芳が梅乃の頭を叩く。 「お前な…… 引退してから何年が経っていると思っているんだ! 近所の人だって、知らない人も多いんだ。 それなのにデカい声で……」 玉芳が追撃のゲンコツを落とす。 「すみません……」 シュンとする梅乃。 すると、玄関から大江が出てくる。「これ、お医者様になんてことを……」 「大江様、お久しぶりです」 梅乃がニカッと笑うと、大江も笑顔になり 「しかし、梅乃ちゃんは立派になったね~。 まさか、お医者様になるなんてな~」 「いえ、赤岩先生や岡田先生がいたからです」 「それと、采さんだろ?」 大江も三原屋の常連だったので、中の事情を知っていた。 梅乃は大江の家に入り、赤子の診察を始める。 「熱はないみたいですね。 これなら安心ですが……」 梅乃がチラッと玉芳を見る。 「何よ? どうしたの?」 玉芳が訊くと 「名前、教えてください」 梅乃が微笑むと 「名前? 今更?」 「へっ? 今更? 私は知りませんが……」 梅乃がポカンとすると
第 百二十三話 友情明治十年、大晦日。 年末を吉原で過ごしたいと思う人は少ない。 早めに用事を済ませて自宅に戻っていく客が多い。吉原に通える男性は東京の人口でも僅かである。 多くの客は妻帯者であり、会社を経営しているくらいの身分でなければ吉原通いは続かない。明治になり、小見世でも安いと思える見世は少なくなってきたことで売り上げはピークから半分程度になっていた。人気を誇っている三原屋、鳳仙楼、小松屋は安定しているが、売り上げが少し落ちてきた妓楼があった。長岡屋である。 長岡屋は喜久乃が花魁だった頃がピークであり、数日間だけの花魁を襲名した喜久陽が亡くなってからは人気が下がってしまった。「やはり、梅毒がな……」 長岡屋では、主人がため息をつく時間が増えていた。「梅毒なんて、どこでもなったじゃない。 三原屋だって鳳仙楼だって同じだったわよ」 主人と話すのが遣り手である。 長岡屋の主人は、女房を遣り手に据えている。 これは、どこの見世でも同じであった。「どうにか巻き返せないものか……」 主人が悩んでいる横を静《しず》が通る。 静は近江屋の禿であったが、近江屋の閉鎖に伴い長岡屋で拾ってもらった禿である。 喜久乃の傍で勉強し、時間こそ掛かったが十六歳で新造となっていた。「父様、母様…… ため息は早いです。 私も十六歳になりました。 これから孝行していきますので」 静がニコッと笑うと「お前は、苦しい時もあったのに、よく我慢してくれたな…&he
第 百二十二話 誕生 明治十年 十二月。 年末になり、吉原の活気が出て来た。 「おはよう……」 一花と二葉が外の掃き掃除をしていると、梅乃が外に出てくる。 「おはようございます」 禿の二人も元気よく挨拶をする。 「どれ、貸して」 梅乃が手を出しホウキを受け取ると 「梅乃姐さん、お医者様にそんなこと……」 二葉が焦っている。 「いいって。 私だって、少し前までは掃除していたんだから」 梅乃がニコニコしていると 「そうよ! 掃除していても、ホウキを置きっぱなしにして何処かに行ってしまったりね」 「小夜姐さん……」 中からクスクスと笑いながら出て来たのは小夜である。 「小夜…… おはよう」 梅乃がニコッとすると、 「なんで梅乃が掃除しているのよ?」 小夜はキョトンとする。 「そりゃ、妓女でもない私が掃除したって変じゃないでしょ? 潤さんだって掃除するし……」 「何を言っているのよ! 梅乃は医者なのよ。 赤岩先生だって、岡田先生だってしなかったじゃない」 小夜が言うと、梅乃は考え込む。 (そういえば先生達は掃除しなかったかも……) 考えても答えが出てこなかったので 「まぁ、私の趣味ってことにしておいて」 梅乃が微笑むと、小夜は 「好きにしたらいいよ。 三原屋《ここ》に居るだけでお婆や
第 百二十一話 親孝行 「ただいま戻りました……」 梅乃が照れ臭そうに言うと「い 生きてたんだね……」 古峰が抱きつく。「へっ? 死んだと思っていたの?」 梅乃が妓女達を見ると、「い いや…… そんなこと……」 妓女たちは、梅乃から目を逸らす。「ね 姐さんたち、梅乃ちゃんの葬式を出そうとしていたんだよ」 古峰が告げ口をするかのように言うと(なんて姐さん達だ……) 梅乃は愕然としていた。「お婆…… ご心配かけました。 ただいま帰りました」 梅乃が膝をつけて頭を下げると「梅乃…… 帰ってきたんだね……」 采は、か細い声で言い、梅乃に手招きをする。(もう歳だし、そんなに弱っていたのか……) 梅乃が菩薩のような目をして采に近寄ると“ポカン――” もの凄い音を立てた采のゲンコツが梅乃の頭に落ちてくる。「ぐっ――」 梅乃が両手で頭を押さえ、目を丸くすると「これで吉原に帰ってきたと実感しただろ?」 采がニヤッとする。「お婆――」 梅乃は両手を広げて采に飛びついていった。この日は妓女たちの風呂の日。 妓女が風呂に入れるのは週に二回
第 百二十話 一年の重み明治十年 十二月。 西南戦争終結から半年が経った。「知らせでは戦争が終わったようだけど、梅乃はどうしているんだろう……?」 采は遠くの空を見つめながらキセルを吹かせている。「お婆、ここ最近は元気がないね……」 勝来が采のことを気に掛けていると「最近じゃないですよ! 一年間、あんな感じじゃないですか」 小夜は呆れている。 (お婆…… 私が居なくなっても同じような顔をしてくれる?)小夜の心は梅乃への嫉妬というより、自分自身の存在が消えてしまうのではないかと不安になっていた。三原屋では花魁の勝来の名前より、梅乃の名前の方が知れ渡っている。 医者であり、子供の頃に殺されかけた話も有名である。「古峰…… ちょっといい?」 小夜が呼ぶ「……」 古峰は途方に暮れながら掃除をしていた。古峰も十五歳になり、新造になったのだが……「古峰――ッ」 小夜が怒鳴ると「は はい――」 古峰は慌てて返事をする。「アンタ、いつまで掃除しているのよ? もう新造なのよ! 禿に任せて妓女の勉強をしなさいよ!」「ご ごめん、小夜ちゃん…… 何故か新造と言われてもピンと来ないんだ…… い いつも三人で同じ行動をしてきたから、どうしても心が付いて
第 百十九話 命の価値三月に入ると、政府軍の猛攻が続く。 薩摩が構える陣は次々と崩壊していった。「こっちだ……」 平八郎が梅乃たちを案内する。 安全な場所から西郷がいる本陣へ向かおうとしていた。 ただ、梅乃たちは何処に向かっているのかは知らない。 東郷も黙って従っていた。 「大丈夫ですか?」 梅乃は薩摩の兵に肩を貸し、ゆっくり歩いているが平八郎は先を急ぐ。 (何を焦っているんだろう……?) 梅乃は気になっていた。 すると、どこからか声が聞こえてくる。 『梅乃ちゃん、そっちはダメ……』 梅乃が振り返ると誰もいなかった。 (なんか、以前にも聞いた声……) 「おじさん…… そっちはダメな気がする……」 梅乃が言うと、平八郎が不思議そうな顔をする。 その瞬間だった。 山の合間、砲の衝撃で崖が崩れ落ちてきた。 「……」 全員が崩落場所を見てから梅乃を見る。 「なぜ、分かったんだ?」 「わかりません…… どこからか声が聞こえまして」 梅乃自身、驚いた表情をしていた。 道を変え、迂回しながら薩摩本陣を目指す。 梅乃たちは医師の使命を持って付いていった。 しばらく歩くと、梅乃が苦痛の表情になっていく。 「大丈夫かい? 梅乃ちゃん……」 東郷が声を掛けるも 「大丈夫です…… 行きましょう」 気丈に振る舞う姿が痛々しかった。 “キイィィン……” 梅乃は頭痛に襲われていた。 (生死を彷徨うほどの戦場だ、ストレスになってもおかしくない……) 東郷が梅乃に代わり負傷兵を担ぐ。 「なんか熱いです……」 梅乃が服をパタパタと仰ぐと 「どれ……」 東郷が熱を計る。 「凄い熱です! すみません、梅乃ちゃんを休ませてください」 東郷が平八郎に言うと、「それはいかん―― すぐに河原まで降りよう……」 薩摩軍は山を下り、河原にやってくる。 手ぬぐいを濡らし、梅乃の額に乗せて一時間ほどが経過する。 梅乃が目を開けると、兵士たちが安堵した表情になる。 「有馬様…… どうして梅乃ちゃんを知っていて、優しくしてくれるのでしょうか?」 東郷が気になっていた事を訊くと 「なに…… 娘を通じて東京で知り合ったんだよ。 怪我を負った私を助けてくれた恩人なんだ」 平八郎が答えると、東郷は梅乃を見つめる。 (なんて娘なんだ…… 誰とでも仲良くでき、困った人を
第八話 覚悟の時「えっ? こんな昼間に共ですか?」 梅乃と小夜が驚く。「そう。 勉強をしましょう」 玉芳は、そう言って出かける準備を始めた。そして向かった先は、仲の町にある瓦版《かわらばん》であった。「ごらんなさい。 ここに沢山の記事があるでしょ! ここから文字や出来事を頭に入れなさい」 梅乃と小夜は、瓦版を覗き込んだ。「これは何て書いてあるんですか?」 小夜が玉芳に聞くと、「これは、法度。 禁じられてる事を言うのよ」 玉芳は丁寧《ていねい》に教えていた。そこに鳳仙が現れた。「おや? 玉芳花魁、今日は昼間からどうしました?」「あぁ、鳳仙か……この娘たちの勉強さ。 妓楼
第七話 禿「会いたかった……」 近江屋の禿は、小夜の手を握っていた。「あ、ありがと……私、小夜。 あなたは?」「私、静(しず)。 よろしくね」 笑顔の二人に、梅乃がヒョコッと顔を出す。「小夜~♪ お友達?」「うん。 静って、近江屋の禿なんだって」 小夜は上機嫌であった。内気な性格で、梅乃しか友達が出来なかった小夜が、自力で友達を作ってきたのだ。「良かった♪ 私、梅乃。 よろしくね♪」こうして三人の禿は仲良くなっていった。時間が空いた時は、よく三人で話しをする仲になっていった。「そういえば、この前の妓女の事なんだけど……」 小夜がお歯黒ドブで亡くなっていた妓女の話を切
第六話 縁日「おはようございます。 いい天気ですよ、花魁」 小夜が窓を開け、玉芳を起こした。「―眩しい。 それに、昨日は飲み過ぎた……」 玉芳は頭を押さえている。「今日は、九(く)朗(ろ)助稲荷(すけいなり)様の縁日でございます。 花魁も支度なさってください」吉原の四方には稲荷社がある。 その中で、特に信仰を集めていたのが京町二丁目奥の九朗助稲荷である。九朗助稲荷では毎月、午(うま)の日は縁日とされている。出店が並び、毎回賑わっていた。「うぅぅ……頭が痛い……」 玉芳は重い体を起こし、着替えていた。この縁日は、花魁たちのパレードのような催しがあり「花魁、通ります!」
第五話 下世話なヤツラ「おはようございます」 梅乃は昼見世の時間前に、玉芳の部屋に行くと「ふわぁぁ……おはよ」 少し寝ぼけている玉芳が返事する。 それから玉芳と梅乃が小さい声で会話をしていた。 「なに? 本当かい? 行くよ」 玉芳が布団を蹴り上げ、起床した。 梅乃が話したことは、三原屋の妓女と余所の見世の妓女とで喧嘩になったとの噂を玉芳に話したのだ。 「場所はどこだい?」 玉芳は気合が入っていたが、何故か顔が嬉しそうであった。 「なんか花魁……楽しそうですね……」 梅乃は小さい声で玉芳に言うと、 「そんな事ないわよ! 心配なだけさ」 『ふんす!』 最後に気合を入れていた